
JUJIRO CAFEを拠点に始まり、道の駅鹿島や夜のマーケットへと広がっている「売らない、古本市」。本を通じたユニークな交流の場を生み出している主催者にお話を伺いました。
古本市とは?

- 古本市について教えてください。
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「売らない、古本市」という名前でやっています。本の物々交換を通じて“はじめまして”の人とコミュニケーションを取りながら、本好きの仲間を増やすことを目的にしています。出店料はないし、金銭の授受も発生しません。
出店者は自分の本を10〜20冊くらい持ってきて屋台に並べ、参加者は1冊本を持参。屋台に並んだ本を見ながら「なんでこの本を持ってきたの?」「どんな思い出があるの?」など会話をして、お互いに「交換したい」と思えたら交換成立。とてもシンプルな仕組みです。2025年4月にJUJIRO CAFEで始めてからは、道の駅鹿島でも「旅する古本市」として開催しました。さらに7月には「太陽と月のマーケット」で屋台を増やし、BOOK NIGHT MARKET(BNM)として規模を拡大しました。BNMと古本市は、ルールは同じで規模が違うだけです。
- 古本市で交換できる本の条件はありますか?
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思い出のある本、誰かに紹介したい本など、エピソードを語れる本であること。それだけです。ジャンルはなんでもアリで、お互いの合意があれば成立します。
処分目的の本はお断りしていますが、思い出の品で捨てるには忍びなく、大切にしてくださる方に持ってきていただけたら嬉しいです。その思いを受け取った人が「今度は自分が大切にしよう」と思えるかもしれませんから。
活動のはじまり・想い

- なぜ「交換」という形にこだわったのでしょうか?
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BNMは福島県郡山市で始まったもので、発案者の佐藤さんとつながりがありました。私自身、関東から鹿島に引っ越してきたときに友達がいなかったので、シンプルに友達を作りたいと思って始めました。
本ってすごく個性が出るものだから、交換を通じて相手の興味や人柄が垣間見える。逆に自分の好きなことも伝えられる。だから「本を介したコミュニケーション」が古本市/BNMで一番大切だと思っています。
- ご自身にとって“本”とはどのような存在ですか?
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実はそこまで読書家ではないんです(笑)。積読(つんどく)も多いし、漫画もよく読みます。でも紙の本はやっぱり「なんか良いな〜」と思う。
自分の本棚を眺めると趣味や性格がすごく出ていて、古本市やBNMに並ぶ本も出店者ごとの個性が出ています。本そのものというより、本を通じて「人の個性が見える」ことが楽しいんです。
- 開催前に不安はありましたか?
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知らない人が多い中で始めたので、「一緒に面白がってくれる人がいるかな?」という不安はありました。でも物々交換なので失敗という概念はないと思っていました。「とりあえずやってみよう、きっとなんとかなる!」という気持ちでスタートしました。
交換体験の面白さ

- 心に残った交換ストーリーを教えてください。
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BNMのとき、小学生の男の子が自作のZINE「走れぶた肉」を屋台に並べていました。タイトルからして気になって仕方なくて。でも手持ちに子どもが欲しがるような本がなくて悩んでいたら、バッグに入っていた「じゃがりこ」が目に入りました(笑)。
「これと交換してくれる?」と聞くと、ちょっと照れながらも嬉しそうに交換してくれました。物々交換だからお互いの合意があれば成立です。今まで出会ったどの本よりも興味が湧き、内容もとても面白かったです。何より、ZINEとして自作の物語を並べていたのが素晴らしいと思いました。
古本市/BNMは、自分の趣味趣向が表れた本棚を見せるという自己開示の場です。出店側には多少の気恥ずかしさがありますが、自作の物語を人に読んでもらうことは、それ以上に心理的なハードルが高いと思うのです。大人になるとプライドもあるから尚更です。しかし、彼は「とにかく好きで面白いものを作って、人に見てもらいたい」という気持ちをそのまま体現していて、それがとても格好良く、羨ましく感じました。
大人も子供も関係なく、好きなものを伝えるのは勇気がいります。でも、伝えて共感し合えた時が一番心に栄養をもらえると思うんです。「とりあえずやってみる」が古本市/BNMでの私の合言葉ですが、彼はまさにそれを体現してくれました。私だけでなく、他の参加者にも良い刺激になったのではないでしょうか。
「本が好き」という前提があれば、「私ならこんなことをやってみたい」というアイデアはいつでも歓迎です。参加してくれた人たちのアイデアを、一緒に形にしていけたらいいなと思っています。
- 本を通じてどんなつながりが生まれていますか?
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年齢や立場に関係なく「本が好き」という一点でつながれるのが面白いです。社会人でも学生でも、普段なら交わらない人同士が出会える。学生と話すと「今の中学生ってこんなことに興味があるんだ」と新鮮な気づきがあります(笑)。
JUJIRO CAFEで開催する理由

- JUJIRO CAFEを会場に選んだ理由は?
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コーヒーと本の相性の良さに加え、カフェという世代を問わず集まれる空間であること。十字路に面した立地で窓を開け放てば、通りすがりの人も気軽に立ち寄れる雰囲気があります。
お店の方も「面白いね」と快く場所を貸してくださり、本当に感謝しています。
- 地域の人たちの反応はいかがですか?
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最初は「売らないってどういうこと?」と不思議がられましたが、趣旨を説明すると楽しんでくれる方が増えました。本を取りに一度家まで戻ってきてくれる人もいました。何度か参加するうちに「今度は出店してみたい」と挑戦する人もいて、参加のハードルがとても低い場になっています。
続けていく工夫

- 活動を続けるうえで大変なことは?
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大変にしない・ゆるくやることを大切にしているので、苦労と思ったことはありません。お客さんが来なければ、本を読んで過ごす休日になるだけです(笑)。
- どんな工夫で「ゆるい本の場」を保っていますか?
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BNMは「BOOK=本」「NIGHT=夕方〜夜の薄暗い時間帯」「MARKET=屋台を使ってお店っぽく」の3つだけ揃えば成り立つシンプルな仕組み。だからこそ誰も無理をせず、主体的に「やりたい」を持ち寄れるんです。誰かに負担が偏らない仕組みが重要だと思っています。古本市は仲間集めがメインだったので、NIGHT(時間)の要素だけ取り除いた形ですね。
大切にしているのは、参加者一人ひとりの主体性です。このイベントは本好きのゆるい集まりなので、参加を強制したり、誰かのアイデアを否定したりすることはありません。誰かの「やりたい」を尊重し、応援するという、人として当たり前のことをするだけです。
そのために、誰か一人に負担がかかることのないシンプルさが必要だと考えています。それが、「BOOK NIGHT MARKET」が3つの条件だけで参加できる仕組みにつながっているのです。
- 今後改善していきたいことは?
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改善というより、とにかく知ってもらって「気になったら一度来てみてほしい」です。説明するより実際に参加して「なんか良いな」と感じてもらうのが一番だと思います。
今後の展望

- 将来的にどんな古本市にしていきたいですか?
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今はイベントっぽい雰囲気ですが、ゆくゆくは日常の延長にある風景にしたいです。週末だけでなく、平日の夜にふらっと2時間くらい集まる、そんな自然な形になればいいですね。
主催者は私でなくてもよくて、「一緒にやりたい」「私もやりたい」と思った人が開催できるような姿を理想としています。本をきっかけに「やってみたい」を形にする場として広げていきたいです。
まとめ
「売らない、古本市」は、本を媒介にしたシンプルで自由なコミュニケーションの場。思い出やストーリーを交換することで、人とのつながりや新しい出会いが生まれています。ぜひ本を片手に、気軽に遊びに来てください。